インタビュー第 1 弾
名古屋のライソゾーム病 専門医 坪井先生

ライソゾーム病広場では、この病気に関わる専門家の方、特に専門医のへのインタビューを行い掲載していきます。

インタビュー第1弾は、本サイトの立ち上げにご協力いただいた医師 名古屋セントラル病院の坪井先生にお話しをお伺いしました。


目次

坪井先生と診療科目

まずは、このサイトを見てくださっている方へ、自己紹介をお願いします。

プロフィール写真

名古屋市にある名古屋セントラル病院・血液内科医の坪井一哉(つぼいかずや)です。

血液内科のほかに、専門外来「ライソゾーム病センター」のセンター長としても診療も行っています。

今回は、ライソゾーム病を専門としたインタビューになりますが、坪井先生は、血液内科の医師でいらっしゃいますが、ライソゾーム病を診るようになったきっかけを教えていただけますか?

最近は忘れられることもありますが、もともと血液内科の医師です(笑)。

研修医の後は、がんセンターや大学病院で「悪性リンパ腫」「白血病」など、血液の疾患を診ていました。
ライソゾーム病との関わりを持ったきっかけは、自分の上司にあたる医師から「ゴーシェ病(※1)」を受け持つよう指示を受けたことでした。
当時は、今よりも患者さんの数が少なく、治療法もない病気、しかも現在とは違ってネットがほとんど普及していなかったので、調べることも大変だったことを覚えています。

1996年から、ゴーシェ病に対する治療法「酵素補充療法」が承認され、自分の受け持っていた患者さんも治療を始めました。
治療を開始すると、患者さんの容態がどんどん良くなっていき、それが自分自身のやりがいに繋がっていきました。

それからは、血液内科とは別枠でゴーシェ病も診るようになりました。

※1 ゴーシェ病:ライソゾーム病に含まれる疾患の1つ

病気について

ゴーシェ病は、ライソゾーム病の1つと伺っています。改めてライソゾーム病の説明をお願いできますか?

ライソゾーム病は、細胞内のライソゾーム(※2)という小器官で、特定の物質を分解する酵素が生まれつき欠けている、
または活性が低下することにより、細胞の活動が阻害されることで発症する先天性代謝異常症(※3)です。

ライソゾーム病は、欠けている酵素や蓄積する物質の種類により、さらに疾患が分けられます。
ゴーシェ病は、そのうちの1つで、ほかにもファブリー病やムコ多糖症など約60種類の疾患が存在しています。

※2 リソソーム、リソゾームなどとも呼ばれる
※3 先天性代謝異常症:生まれつき、体内の物質を分解したり合成したりする代謝に関わる酵素が欠損したり、機能が低下したりすることで起こる病気の総称

名古屋セントラル病院では、ライソゾーム病に対してどんな治療を行っていますか?

名古屋セントラル病院では、足りない酵素を補充する「酵素補充療法」や「シャペロン療法」、「基質合成抑制療法」を行っています。
しかし、ライソゾーム病は、多臓器に症状が現れる場合があります。そのため、血液内科だけではなく、ほかの診療科での治療も必要になります。

この名古屋セントラル病院では、ほかの診療科とも連携し、医師同士も協力して患者さんの治療を行っています。

治療法だけでなく、医師の連携が強みということですね。医師間の連携に加えて、坪井先生ご自身が診療の際に心がけていることを教えていただけますか?

そうですね、”患者さんと一緒に学びながら治療を行うこと”ですかね。

私たち医師は、病気に関する知識はあると思います。ただ、その症状や病状の経過について理解しているのは、患者さんご自身です。
そういった患者さんの状況を汲みとり、病気との付き合い方や病気のことを理解してもらうためにどうしたいいか、そういったことも相談しながら、治療をしていくことが大切だと考えています。

私自身、がんの患者さんを診てきた経験から、患者さんと一緒に歩むことの大切さを実感し、日々心がけています。

Sakura Network Japanとは

坪井先生は、疾患啓発を目的とした組織、「一般社団法人Sakura Network Japan(以下、Sakura Net/さくらねっと)」を運営されていらっしゃいます。改めてSakura Netについて教えてください。

Sakura Netは、ライソゾーム病を中心とした希少難病の診断と治療、疾患啓発、そして「誰もが生きやすい社会に~難病とともに~」をテーマに活動している団体です。(※4)主な活動として、患者会「Sakuraの会」の運営、ライソゾーム病の啓発活動、医療関係者への情報提供、患者支援などがあります。また、ライソゾーム病の早期発見と診断を促すために、一般の方々への啓発活動にも力を入れています。

発足以来、ライソゾーム病の患者とその家族を支援するために、様々な活動を行ってきました。例えば、患者会「Sakuraの会」の運営では、患者や家族が互いに支え合い、情報交換できる場を提供しています。また、ライソゾーム病の啓発活動では、パンフレットやポスターの配布、講演会やセミナーの開催などを通じて、一般の方々にライソゾーム病について知ってもらう機会を提供しています。

さらに、医療関係者への情報提供にも力を入れています。ライソゾーム病に関するパンフレットや冊子を作成し、患者さんや関係者へ配布するほか、セミナーや勉強会も開催しています。これにより、ライソゾーム病についてより深く理解し、適切な医療を提供できるよう支援しています。

また、患者支援活動として患者同士の交流の場の提供にも力を入れています。Sakuraの会がこの活動にあたります。

今後も患者さんが安心して治療を受けられるよう、患者さんとその家族を支援する活動を行っていく予定です。

先日も、Sakura Netを代表する啓発イベント「第15回Sakuraの会-Japan Art Festival 2024-」が名古屋城で開催されましたね。たくさんの人が来場したと聞きました。

昨年は、約4000人。今年の10月は、5000人以上の方が来場してくださいました。
ここまで大きくなったSakuraの会ですが、最初は、2005年に、名古屋セントラル病院の有志の勉強会として“ライソゾーム病勉強会”として始まりました。当初は、医師、看護師のみの参加でした。

その後、院内で実施していた勉強会のことを患者さんに話すと、多くの方が「私たちも参加したい」と希望されました。
当時、ライソゾーム病に関する情報も少なく、患者さんが病気に関することを”気軽に聞ける場所が必要と考え、2010年に、“第1回Sakuraの会”を開催しました。以後、毎年開催しており、今年で16年目を迎えます。

最初は病院の勉強会だったのですね。Sakuraの会という名前にも由来があると伺いました。

当時、遺伝の病気は「周りに理解されにくい」「病気を知ってもらうために親族を連れてきたいが、ハードルが高い」という話も聞き、誰でも覚えられる名前、そして参加しやすい名前に変えようということになりました。

色々考えた結果、”患者さんが過ごしやすい春 さくらの季節”、さらに“名古屋セントラル病院の記念樹 さくら”に合わせて付けたのが由来です。

Sakuraの会は、コロナ禍から名古屋城で開催されたと聞きました。

そうです。毎年、春に開催していたのですが、2020年にコロナ感染症のため、一旦、中止しました。

しかし、多くの患者さんから、「楽しみにしていたのにさみしい」、「何か開催できませんか?」など、コロナ禍でも周りの方がSakuraの会の開催を強く希望。昔、国際学会で名古屋城を利用したことを思い出し、厳重なコロナ感染症ガイドラインに従いながら“第11回Sakuraの会-Japan Art Festival 2020-”を開催しました。

それから、毎年名古屋城で開催するのが恒例になっています。

すごいですね!

ありがたいです。Sakuraの会は、疾患啓発と患者さんと交流できる場所として運営することに変わりありません。

ただ、今では、地域の観光資源として、Sakuraの会を名古屋城で開催することで、たくさんの方が名古屋城を知ってもらうきっかけになればとも考えています。

今後の展望

ライソゾーム病の専門医として、さらにSakura Netの活動も含めて、坪井先生の今後の目標や展望をお聞きしてもよろしいでしょうか。

難しい質問ですね…

ただ、医師として、そしてSakura Netの活動においても、自分1人ではここまでできなかったと思います。
多くの医療スタッフやSakura Netの活動に協力してくれるスタッフの皆さん、そして、何よりも患者さんやそのご家族の方々…多くの方々の協力や支えがあったから今があります。

これからは、その恩返しとして、医療の知識や経験を患者さんや社会へもっとわかりやすく伝えていきたいと考えています。

最後に、この記事を読んでくださっている方へメッセージをお願いします。

来年3月28-29日には、岡山城で、“第16回Sakuraの会 in 春の岡山城”を開催します。

また、秋には、名古屋城で“第17回Sakuraの会-Japan Art Festival 2025-”を開催する予定です。ぜひ一度足を運んでみてください。

皆さんにお会いできることをスタッフ一同、心から楽しみにしています。

坪井先生、本日はありがとうございました。



〒453-0801 愛知県名古屋市中村区太閤3-7-7
名古屋セントラル病院
ライソゾーム病センター センター長
血液内科 主任医長
坪井 一哉 先生

インタビュー・作成
一般財団法人 日本患者支援財団 運営事務局