ファブリー病 疾患情報
疾患情報
ファブリー病は、細胞内のライソゾームに存在する、α-ガラクトシダーゼA(α-GAL)と呼ばれる酵素が十分に生成されない、あるいは機能しない、まれな遺伝病です。 この酵素は、私たちにとって不要な脂肪様物質であるスフィンゴ脂質(グロボトリアオシルセラミド)を分解し、血管や組織に蓄積されるのを防いでいます。しかし、α-GAL酵素が機能しないと、有害なレベルのグロボトリアオシルセラミドが血管や組織に蓄積します。その結果、ファブリー病の患者さんでは、特に心臓、腎臓、神経、皮膚に症状がみられます。 なおファブリー病は、特に性染色体であるX染色体の異常が原因となっており、男性に多くみられる病気です。またライソゾームに不要物質が蓄積する、ライソゾーム病の一種です。

ファブリー病の症状

ファブリー病の症状は、α-GAL酵素の不足量によって異なっており、個人差があります。

子どもの頃から見られることが多い症状

四肢末端痛 
小児期から、手足の先端に焼けるような、激しい痛みを繰り返し感じます。特に精神的ストレス、運動や発熱、気温の変化などに伴って痛みがひどくなる傾向があり、長ければ数時間持続します。感覚が麻痺してしまうこともあります。
発汗障害
自律神経の障害が原因となり、体温が上昇しても汗をかきにくくなり、体温が上昇しやすくなります。暑い季節は熱中症対策が必要です。
皮疹
胸から膝までの範囲に、褐色または赤紫色の小さな発疹(被角血管腫)が現れます。学童期から始まり、次第に増えていきます。
消化機能
食後に腹痛、下痢、嘔気、嘔吐などを引き起こすことがあります。
ファブリー病の症状

成人してから見られることが多い症状

腎障害 
蛋白尿や腎不全などが現れます。腎障害は30代以降に生じることが多く、進行すると腎不全に至ることもあります。
心筋障害
心肥大や不整脈などが現れ、ファブリー病が進行すると、心不全に至ることもあります。
脳血管障害
脳梗塞や脳出血などをきたし、後遺症を残すこともあります。
角膜混濁
角膜が混濁することがあります。
聴覚障害
聴覚の低下、耳鳴り、めまいを起こすこともあります。

発症の特徴

ファブリー病はまれな病気で、かつては約4万人に1人と考えられてきましたが、近年国内で実施された新生児マススクリーニングの結果から、有病率は約7千人に1人の割合と報告されています。

さらに発症する患者の多くは男性で、これはX染色体に異常が起こると、X染色体が2本ある女性では、異常をきたしたX染色体を、異常のないX染色体がカバーできますが、X染色体が1本しかない男性では、異常をカバーすることができないため、より症状が出現しやすくなるためです。

発症の特徴

古典型(男性)

腎障害 
蛋白尿や腎不全などが現れます。腎障害は30代以降に生じることが多く、進行すると腎不全に至ることもあります。
心筋障害
心肥大や不整脈などが現れ、ファブリー病が進行すると、心不全に至ることもあります。
脳血管障害
脳梗塞や脳出血などをきたし、後遺症を残すこともあります。
角膜混濁
角膜が混濁することがあります。
聴覚障害
聴覚の低下、耳鳴り、めまいを起こすこともあります。

遅発型(男性)

小児期には症状がほぼありませんが、成人になってから臓器障害(主に心筋障害、腎障害)をきっかけに診断されることが多いタイプです。

女性ヘテロ型(女性)

全く症状がみられない方から、女性でも古典型のように腎障害や脳梗塞などの臓器障害を発症することがあります。

ファブリー病の診断と治療

ファブリー病の診断を目的とする検査は、主に次の2つ実施されています。

血液検査 : α-GAL酵素 活性の測定

まずはファブリー病が疑われる症状や家族歴がある場合、男性は血液検査で、白血球の酵素活性を測定します。男性は酵素活性が低い、あるいは酵素が不足していることで診断ができます。

遺伝子検査: α-GAL遺伝子 変異の検出

女性は酵素活性がある程度保たれいるため、血液検査測定のみで診断ができないことがあります。その場合は遺伝子検査を行います。なお、その他にも症状に応じて心臓の超音波検査、尿検査なども行われます。

ファブリー病の治療は、疾患の進行を抑制することが目的となります。

酵素補充療法

不足しているα-GAL酵素を補充する治療法です。酵素を補充することで、不要な糖脂質が分解され、心機能の改善、腎機能の悪化の抑制、QOLの改善などが期待できます。また病気の進行を遅らせることもできます。

薬理学的シャペロン療法

活性が落ちているα-ガラクトシダーゼA酵素の働きをサポートすることを目指す、内服薬による治療法です。この治療法は酵素の働きを助けるための治療法で、そもそも酵素ができない、酵素活性がない場合には、効果がありません。したがって、投与前に遺伝子検査が必要になります。

これらの治療法の進歩もあり、ファブリー病の患者さんの予後は、大きく改善しています。

参考文献

国立国際医療研究センター病院 ファブリー病について

NIH 脂質蓄積疾患

早期発見の大切さ

早期発見の大切さ

ファブリー病は、ライソゾーム病の一種です。同じライソゾーム病の一種であるムコ多糖患症Ⅵ型では、5歳6か月と生後6週間から早期に治療(酵素補充療法)を開始した、兄妹の症例があります。

お兄さんは、2歳のとき言葉の遅れがみられていましたが、酵素補充療法を開始後、聴力の改善により言葉の遅れは全く認めず、精神運動発達は正常範囲で経過しています。
また、妹さんも出生時にムコ多糖症Ⅵ型であることがわかり、生後6週間から治療を開始。治療開始後は、関節症状はほとんど認めず、聴力も正常範囲内を保てています。

ムコ多糖症Ⅵ型を含むライソゾーム病は、症状が出る前に診断をすることが非常に難しい病気です。
しかし、早期発見、早期に治療を開始することで、今回のような長期の予後が改善された例もあります。
また、現在では拡大スクリーニングの対象疾患となっており、実施している自治体も増えてきています。

出産の際はスクリーニングを受けたり、疑われる症状があった際は、早いタイミングで医療機関へ受診しましょう。

監修医:名古屋セントラル病院ライソゾーム病センター長、主任医長(科長) 坪井一哉 先生


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